★30秒でわかる!この記事の内容
- 不動産には次の特性がある。(1)土地の特性と対応関係にある条件を前提とした利用形態と有用性がある。また、前提が変われば利用形態や有用性も変わる。(2)不動産は周りの似たような不動産と一緒になって地域を構成して、その地域の影響を受ける。(3)一つ一つの不動産で構成される地域もまた固有の性格を有する。
- 不動産の価格は、基本的には需要と供給のバランスや、一つ一つの取引で決められるが、不動産の特性によって他のモノとは少し違った形で形成されるため、本当に適正なものかどうかが分かりにくい。
- 不動産の鑑定評価とは、不動産鑑定士が、評価対象となる不動産に対して、経済環境、不動産市況、所在する地域の状況、その不動産固有の状況等の分析を加えつつ、経済原理に基づく価格形成メカニズムを当てはめて理論上の価格を算出する行為であり、特殊な事情がなければおそらくこれくらいになるだろうという値段を出すこと。
「不動産鑑定士がおすすめの資格なのは分かったけれど、そもそも不動産の鑑定評価って何?・・・なんで不動産の価格は評価しないといけないの?」
本記事ではそんな疑問にお答えすべく、不動産の鑑定評価についてしっかりと解説させていただきます。
不動産の特性
「不動産の鑑定評価とは何か?」を解説する前に、「不動産の特性(特性というのは、そのものだけが有する性質をいいます)」について理解しておく必要があります。
基本的な内容ではありますが、改めて整理をしてみると不動産の価格形成のメカニズムを理解しやすくなるはずです。
不動産とは
さて、私たちにとって一番なじみ深い不動産は自分の住んでいる家です。
マンションだったり戸建住宅だったり、賃貸住宅だったり分譲住宅だったり、いろいろありますが、共通しているのは土地と建物で構成されている、ということです。
民法では不動産を「土地及びその定着物」と定義しています。
定着物というのは石垣だったり、木だったり、いろいろありますが、分かりやすいのはやはり建物です。
住宅やオフィス、店舗やホテルはいずれも土地と建物で構成されています。
土地の特性
土地建物のうち土地については、次のような特性を持っています。
- 地面に固定されていて動かせないこと
- 無くならない反面、増やせないこと
- 同じものがないこと
- いろいろな使い道があること
- 一体でも利用できるし、分割しても利用できること
1.と2.は比較的分かりやすいのではないでしょうか。
土地は動かせないし、無くならないし、増やせません。
隣り合っていても向かい合っていても「同じもの」ではありません。
3.については、住宅地に大きめの土地があったらマンションにも戸建住宅にもできますし、繁華街に建っているビルは法令上の制約がなければ事務所としても店舗としても利用できます。
また、4,については、お隣さんと一緒にビルを建てることもできるし、大きな土地の一部を切り売りしてもらって家を建てることもできます。
不動産の特性
このような土地の特性から、土地と建物で構成される不動産はさらに3つの特性を持っています。
- 不動産には、土地の特性と対応関係にある条件を前提とした利用形態と有用性がある。また、前提が変われば利用形態や有用性も変わる。
- 不動産は周りの似たような不動産と一緒になって地域を構成して、その地域の影響を受ける。
- 一つ一つの不動産で構成される地域もまた固有の性格を有する。
1.については、傾斜にある土地であればその傾斜をうまく利用した使われ方をするし、戸建住宅地にある規模の大きな土地であれば、分割して戸建住宅用地として使われます。
2.については、周辺の戸建住宅が建っているエリアに唐突の高層のオフィスビルが建っていたらちょっとビックリしますよね。
やっぱり戸建住宅が建ち並ぶ住宅街にある不動産は戸建住宅として利用するのが自然です。
逆に、繁華街であれば戸建住宅よりも高層のビルのほうが似つかわしいはず。
3.については、同じ住宅街でも都心の高級住宅街と郊外の新興住宅街では違いますし、同じ繁華街でも新宿と銀座ではやっぱり微妙に違いますよね。
このような「土地の特性」「不動産の特性」を頭に入れておくと、次の章で解説する「不動産の価格形成メカニズム」が分かりやすくなります。
不動産の価格形成メカニズム
需要と供給のバランスで決まるモノの値段
モノの値段は需要と供給のバランスで決まります。
売りたい人の希望価格と買いたい人の希望価格がちょうどバランスするところが市場に出回る価格です。
世の中に流通するモノのほとんどはその経済原理に従って価格形成されています。
単純に言えば、売りたい人が多ければ価格は下がり、買いたい人が多ければ価格は上がります。
製造工程を見直して安い価格で製品を販売できる供給者が登場すれば、高い価格でしか販売できない供給者は淘汰されますし、入荷待ちの人気商品は定価でないとそう簡単には買えません。
他のモノと違った形で形成される不動産の価格
不動産の価格も、基本的には需要と供給のバランスで決まります。
ただ、不動産は以下の特性があるため、その価格は他のモノとは少し違った形で形成されます。
土地の特性(再掲)
- 地面に固定されていて動かせないこと
- 無くならない反面、増やせないこと
- 同じものがないこと
- いろいろな使い道があること
- 一体でも利用できるし、分割しても利用できること
不動産の特性(再掲)
- 不動産には、土地の特性と対応関係にある条件を前提とした利用形態と有用性がある。また、前提が変われば利用形態や有用性は変わる
- 不動産は周りの似たような不動産と一緒になって地域を構成し、その地域の影響を受ける
- 一つ一つで構成される地域もまた固有の性格を有する
同じ形状、面積の土地でも、戸建住宅として利用される不動産とオフィスビルとして利用される不動産では価格水準が違います。
他の商品と異なり定価もなければ特売日もバーゲンセールもありません。
株式市場のようにオープンな取引所で取引されることもありません。
不動産は一つ一つ違うため、相場があったとしても個別の不動産にそれを当てはめるのは、それはそれで結構難しかったりします。
不動産屋さんに「この価格は今後二度と出会えない掘り出し物です。だから高いんです。」と言われれば、そういうものかなと思ってしまいそうですよね。
しかもさらに厄介なことに不動産は特殊な事情で売買されることもありえます。
例えば、地面の底に何か埋まっていて掘り返して撤去する必要がある、なんてこともあります。
土地を持っている人が早く現金化したいがためにスピードを優先し相場よりも安く売ってしまうこともありますし、逆にどうしてもその土地がほしい人が相場よりも高く買ってしまうこともあるかもしれません。
場合によっては将来の値上がりを期待して投機として高く買うこともあるかもしれません。
そんな特殊な事情によって売買価格は変わってしまうし、しかも、それが特殊な事情によるものなのか、不動産そのものの実力を反映したものなのか、普通の人にはなかなか分かりにくいものなんですよね。
適正かどうかが分かりにくい不動産の価格
家を購入したことのある方、もしくは家の購入を検討している方はご存知かと思いますが、不動産の価格っておおよその相場はあるものの、実はあまりはっきりしていないですよね。
街の不動産屋さんのショウウインドウ、新聞の折り込み広告、インターネットの不動産サイトでは、売りに出ている土地や建売住宅等の物件情報が並び、そこに価格も掲載されていますが、これはあくまでも売主の希望価格です。
掲載された物件をとても気に入って、その価格のまま購入する買主さんもいると思いますが、高価な買い物ですし、できればもう少し安くならないかと仲介会社さんを通じて売主と価格交渉することも多いはず。
ただ、いずれにしても実際にいくらで取引されたかは実は当事者にしか分かりません。
売主の希望価格のまま取引されたのか、価格交渉の結果、少し安くなったとしたらいくらまで下がったのか、第三者である僕らに知るすべはありません。
不動産の価格形成メカニズム
ということで、定価も特売日もバーゲンセールもない一つ一つ異なる不動産ですが、需要も供給もありますので、当事者間では日々価格交渉が行われ、取引されています。
不動産の価格は一つ一つの取引で形成されますが、その価格が本当に適正なものかどうかが分かりにくい。
個人であれば、売買価格が本当に適正な価格なのか、分からなくてもお互い納得できれば取引が成立します。
ところが、企業や行政機関の場合は、不動産を売ったり買ったりするために決裁手続きなどの組織内決定が必要になりますし、場合によっては対外的な公表が必要なこともあります。
その際に、売買価格が適正なものかどうかを説明するための根拠が必要となります。
その根拠として不動産鑑定士に依頼して鑑定評価額を算出してもらうのです。
不動産の鑑定評価とは何か
鑑定評価がなくても不動産の価格は取引の都度、当事者間で個別に決まりますので、個人の方が鑑定評価を取得する機会は相続や係争などを除けばほとんどありません。
鑑定評価を必要とするのはどちらかと言えば企業や行政機関等です。
企業や行政機関等は、組織内の決裁手続きをする際の根拠として、あるいは対外的に公表する際の証跡として、鑑定評価を取得します。
不動産鑑定士が算出した鑑定評価額と比較して、大きな乖離がないことをもって不動産売買取引における売却価格または取得価格が妥当なものであることを内外に向けて説明する必要があるからです。
不動産の鑑定評価とは?
鑑定評価では、評価対象となる不動産に対して、経済環境、不動産市況、所在する地域の状況、その不動産固有の状況などを分析し、経済原理に基づく価格形成メカニズムを当てはめて理論上の価格を算出します。
端的に言えば、鑑定評価額は、特殊な事情、売買当事者の力関係、情報の非対称性などがなければ、おそらくこれくらいになるだろう、という値段です。
企業や行政機関等は、この理論上の価格と比較することで、自分たちが行う不動産取引では、安すぎる値段では売っていないし、高すぎる値段でも買っていないですよ、ということを説明しているわけです。
ということで、不動産の特性から始まり価格形成メカニズムまで長々とご説明してきましたが、不動産の鑑定評価とは何か、その答えは、不動産鑑定士が、評価対象となる不動産に対して、経済環境、不動産市況、所在する地域の状況、その不動産固有の状況等の分析を加えつつ、経済原理に基づく価格形成メカニズムを当てはめて理論上の価格を算出する行為であり、特殊な事情がなければおそらくこれくらいになるだろうという値段を出すことです。
不動産の適正な価格を指し示す行為であることから、不動産の鑑定評価には、社会的公共的意義も認められます。
前述の企業や行政機関等が鑑定評価を取得する例は不動産売買の参考とすることを目的とするものでしたが、それ以外にも、地価公示や相続税路線価、固定資産税、補償等の公的な評価、会計上の時価を出すための評価、融資する際の不動産担保の評価、相続税納税のための評価、競売のための評価、係争のための評価、再開発における権利変換のための評価等、様々な目的で鑑定評価が利用されています。
不動産鑑定評価基準の定義
最後に、国土交通省が発行し、不動産鑑定士が鑑定評価を行う際の基準とする「不動産鑑定評価基準」に記載された不動産の鑑定評価の定義をいくつかご紹介しておきます。
ちなみに、この定義は不動産鑑定士試験の受験勉強をしていると、何百回、もしかしたら何千回と目にすることになるかもしれません。
「不動産の鑑定評価は、その対象である不動産の経済価値を判定し、これを貨幣額をもって表示することである」
「不動産の鑑定評価とは、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる市場で形成される市場価値を表示する価格」
「不動産の鑑定評価とは、不動産の価格に関する専門家の判断であり意見」
(出所:不動産鑑定評価基準)
まとめ
以上が本記事でお伝えしたかった内容です。これまでお話ししてきたことをまとめると以下のとおり。
- 不動産には次の特性がある。(1)土地の特性と対応関係にある条件を前提とした利用形態と有用性がある。また、前提が変われば利用形態や有用性も変わる。(2)不動産は周りの似たような不動産と一緒になって地域を構成して、その地域の影響を受ける。(3)一つ一つの不動産で構成される地域もまた固有の性格を有する、
- 不動産の価格は、基本的には需要と供給のバランスや、一つ一つの取引で決められるが、不動産の特性によって他のモノとは少し違った形で形成されるため、本当に適正なものかどうかが分かりにくい。
- 不動産の鑑定評価とは、不動産鑑定士が、評価対象となる不動産に対して、経済環境、不動産市況、所在する地域の状況、その不動産固有の状況等の分析を加えつつ、経済原理に基づく価格形成メカニズムを当てはめて理論上の価格を算出する行為であり、特殊な事情がなければおそらくこれくらいになるだろうという値段を出すこと
この記事が皆さまのお役に立てると嬉しく思います。
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