不動産鑑定士は、独立開業のしやすい資格であり、就職・転職にも極めて有利なおすすめ資格ですが、資格試験の内容はどのようなものなのでしょうか。
この記事ではこれまで解説してきた不動産鑑定士試験の概要についてまとめてみました。
不動産鑑定士試験の概要~短答式・論文式の試験科目と試験形式
不動産鑑定士試験は短答式試験と論文式試験の2段階選抜方式です。
短答式試験に合格すると論文式試験を論文式試験の受験資格を獲得し、2年間は短答式試験の免除を受けることができます。
1回目 | 2回目 | 3回目 | |
短答式試験 | 合格 | 免除 | 免除 |
論文式試験 | 不合格 | 不合格 | 不合格 |
短答式試験に受験資格はなく、誰でも受験することが可能です。
試験日は5月中旬の日曜日。
試験科目は「鑑定理論」と「行政法規」の2科目。出題形式は五肢択一マークシート方式。
試験日 | 例年5月中旬の日曜日(1日間) |
試験地 | 北海道札幌市、宮城県仙台市、東京都、新潟県新潟市、愛知県名古屋市 大阪府大阪市、広島県広島市、香川県高松市、福岡県福岡市 沖縄県那覇市 |
合格発表 | 例年6月下旬 |
試験科目 | 不動産に関する行政法規(行政法規) 不動産の鑑定評価に関する理論(鑑定理論) |
試験時間 | 行政法規:10:00~12:00(120分) 鑑定理論:13:30~15:30(120分) |
出題数・配点 | 行政法規:出題数40問、配点100点 鑑定理論:出題数40問、配点100点 |
出題形式 | 五肢択一マークシート方式 |
合格基準 | 総合点で概ね7割を基準に土地鑑定委員会が相当と認めた得点。ただし、総合点のほかに各試験科目について一定の得点を必要とする。 |
論文式試験は短答式試験の合格者が受験可能です。
試験日は7月下旬~8月上旬の土日月(3日間!)。
試験科目は「鑑定理論」「民法」「会計学」「経済学」の4科目です。
ただし、鑑定理論は論文問題が2回、演習問題1回の計3回に分けて実施されるため、半分のウエイトを占めます。
出題形式は論文式(演習含む)です。
試験日 | 例年 7月下旬~8月上旬 (日曜日を含む土・日・月の連続する3日間) ※ 令和3年は8月14日(土)、15日(日)、16(月)の予定 |
試験地 | 東京都 大阪府大阪市 福岡県福岡市 |
合格発表 | 例年 10月中旬 ※ 令和3年は10月29日(金)の予定 |
試験科目 | 民法、経済学、会計学、不動産の鑑定評価に関する理論 |
試験日時 | 民 法 :1日目10:00~12:00(120分) 経済学 :1日目13:30~15:30(120分) 会計学 :2日目10:00~12:00(120分) 鑑定理論(論文):2日目13:30~15:30(120分) 鑑定評価(論文):3日目10:00~12:00(120分) 鑑定理論(演習):3日目13:30~15:30(120分) |
出題数・配点 | 民 法 :出題数2問、配点100点 経済学 :出題数2問、配点100点 会計学 :出題数2問、配点100点 鑑定理論(論文):出題数2問、配点100点 鑑定評価(論文):出題数2問、配点100点 鑑定理論(演習):出題数1問、配点100点 |
出題形式 | 論文式(演習による出題を含む) |
合格基準 | 総合点で概ね6割を基準に土地鑑定委員会が相当と認めた得点。ただし、総合点のほかに各試験科目について一定の得点を必要とする。なお、免除科目がある場合は、免除科目を除いた科目の合計得点を基に偏差値等を用いて算出した総合点に相応する点数を、その者の総合点として判定 |
不動産鑑定士試験の難易度
不動産鑑定士は、弁護士、公認会計士と並ぶ三大国家資格の一つであり、その資格試験は超難関国家試験です。
近年の合格率は、短答式試験が30~33%、論文式試験が14%~15%で推移しており、単純に掛け合わせると合格率5%程度です。
<短答式試験>
実施年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 | 合格ライン |
2015年 | 1,473人 | 451人 | 30.60% | 70.00% |
2016年 | 1,568人 | 511人 | 32.60% | 63.75% |
2017年 | 1,613人 | 524人 | 32.50% | 67.50% |
2018年 | 1,751人 | 584人 | 33.40% | 68.75% |
2019年 | 1,767人 | 573人 | 32.40% | 70,00% |
2020年 | 1,415人 | 468人 | 33.10% | 66.25% |
<論文式試験>
実施年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 | 合格点 |
2015年 | 706人 | 100人 | 14.20% | 378点 |
2016年 | 708人 | 103人 | 14.50% | 348点 |
2017年 | 733人 | 106人 | 14.50% | 347点 |
2018年 | 789人 | 117人 | 14.80% | 376点 |
2019年 | 810人 | 121人 | 14.90% | 353点 |
不動産鑑定士に合格するための必要勉強時間は個人差があるものの3,000時間程度。公認会計士や税理士、司法書士といった人気の超難関国家試験と同レベル。
(各資格の必要勉強時間はあくまでも目安に過ぎませんのでご注意を!)。
資格 | 必要勉強時間の目安 |
弁護士 | 6,000時間 |
公認会計士 | 3,000時間 |
不動産鑑定士 | 3,000時間 |
税理士 | 3,000時間 |
司法書士 | 3,000時間 |
社会保険労務士 | 1,000時間 |
中小企業診断士 | 1,000時間 |
土地家屋調査士 | 1,000時間 |
行政書士 | 600時間 |
マンション管理士 | 500~600時間 |
宅建士 | 250~400時間 |
FP2級 | 350時間 |
日商簿記2級 | 250時間 |
基本情報技術者試験 | 200時間 |
超難関資格であることに変わりはないが、以前に比べれば合格のしやすさはアップしています。
今後はもしかしたら注目を集め人気を取り戻すかも?希少性が高く収入は安定的、現時点ではいまだ受験者数が少ない状況です。
不動産鑑定士は、「レアでお得な資格」であるとともに「穴場の資格」「狙い目資格」と言えます。
不動産鑑定士試験の内容・出題範囲
不動産鑑定士試験の目的は、不動産鑑定士を目指す人が必要な学識とその応用能力を持っているかどうかを判定することです
短答式試験では「行政法規」「鑑定理論」の2科目、論文式試験では「民法」「経済学」「会計学」「鑑定理論」の4科目が論文式で出題され、各科目とも広範囲にわたる基礎知識に関して体系的・本質的理解が必要です。
広範囲かつ体系的・本質的理解が求められるのは、不動産鑑定士が、不動産のプロフェッショナル、スペシャリストとして専門的知見と幅広い知識を必要とするためです。
短答式試験
不動産に関する行政法規(行政法規)
出題範囲 | 土地基本法、不動産の鑑定評価に関する法律、地価公示法、国土利用計画法、都市計画法、土地区画整理法、都市再開発法、建築基準法、マンションの建替え等の円滑化に関する法律(建物の区分所有等に関する法律の引用条項を含む。)、不動産登記法、土地収用法、土壌汚染対策法、文化財保護法、農地法、所得税法(第1編から第2編第2章第3節までに限る。)、法人税法(第1編から第2編第1章第1節までに限る。)、租税特別措置法(第1章、第2章並びに第3章第5節の2及び第6節に限る。)、地方税法、都市緑地法、住宅の品質確保の促進等に関する法律、宅地造成等規制法、宅地建物取引業法、自然公園法、自然環境保全法、森林法、道路法、河川法、海岸法、公有水面埋立法、国有財産法、相続税法、景観法、高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律、不動産特定共同事業法(第1章に限る。)、資産の流動化に関する法律(第1編及び第2編第1章に限る。)、投資信託及び投資法人に関する法律(第1編、第2編第1章及び第3編第2章第2節に限る。)、金融商品取引法(第1章に限る。) |
問われる内容 | 行政法規では、不動産鑑定士が実際に鑑定評価を行う際に必要となる37の法律についての基本的知識を問われます。 |
不動産の鑑定評価に関する理論(鑑定理論)
出題範囲 | 不動産鑑定評価基準及び不動産鑑定評価基準運用上の留意事項 |
問われる内容 | 「不動産鑑定評価基準」と「運用上の留意事項」は、国土交通省が制定し、不動産鑑定士が実際に不動産の鑑定評価を行う際に規範とすべきものです。鑑定理論では、不動産鑑定士がどのような理論と手順で不動産の鑑定評価を行うか、といった基本的知識を問われます。 |
論文式試験
民法
出題範囲 | 民法、第1編(総則)、第2編(物権)、第3編(債権)を中心に、同法第4編(親族)及び第5編(相続)並びに次の特別法を含みます。 借地借家法、建物の区分所有等に関する法律 |
問われる内容 | 民法は私法の一般法を定めた法律。かいつまんで言えば、社会生活における権利だとか義務だとか、家族関係だとか相続だとか、についての基本的ルールを定めたものです。内容は不動産に関連するものが中心。「民法」のほか「借地借家法」と「建物の区分所有等に関する法律」も出題範囲になっています。論文での解答になりますので、体系的・本質的理解が必要です。 |
経済学
出題範囲 | ミクロ及びマクロの経済理論と経済政策論 |
問われる内容 | 企業や消費者がどのような経済行動を分析対象とするミクロ経済学と国または世界経済全体を分析対象とするマクロ経済学に関する知識を問われます。論文での解答になりますので、体系的・本質的理解が必要です。 |
会計学
出題範囲 | 財務会計論(企業の財務諸表の作成及び理解に必要な会計理論、関係法令及び会計諸規則を含む。) |
問われる内容 | 企業が公表する財務諸表の作成に関わるルールと、そのルールの基礎となっている理論の知識を問われます。論文での解答になりますので、体系的・本質的理解が必要です。 |
不動産の鑑定評価に関する理論(鑑定理論)
出題範囲 | 不動産鑑定評価基準及び不動産鑑定評価基準運用上の留意事項 |
問われる内容 | 鑑定理論は3単位の時間で、論文問題が4問、演習問題が1問出題されます。 論文問題は、実際に鑑定評価を行う際の鑑定理論に関する知識を問われます。論文での解答になりますので、体系的・本質的理解が必要です。 演習問題は、不動産の鑑定評価に関するケーススタディで、鑑定評価手法を用いて不動産の鑑定評価を行います。具体的には電卓を使って計算し、プロセスを明示しながら鑑定評価額を決定する問題です。計算問題になりますので、体系的・本質的理解が必要です。 |
不動産鑑定士に合格するための必要勉強時間
不動産鑑定士試験は短答式試験と論文式試験の2段階選抜方式です。
各試験に合格するための必要勉強時間の目安は、短答式試験が1,000時間程度、論文式試験が2,000~3,000時間、不動産鑑定士試験全体で言えば3,000~4,000時間と言われています。
<短答式試験>
試験科目 | 必要勉強時間(目安) |
不動産に関する行政法規(行政法規) | 300~400時間 |
不動産の鑑定評価に関する理論(鑑定理論) | 600~700時間 |
<論文式試験>
試験科目 | 必要勉強時間(目安) |
民法 | 300~400時間 |
経済学 | 300~400時間 |
会計学 | 300~400時間 |
不動産の鑑定評価に関する理論(鑑定理論) | 1,100~1,800時間 |
同じ年に短答式試験と論文式試験の両方合格を目指す「短期戦略」と、1年目は短答式試験合格に集中し、2年目は論文式試験合格に集中する「長期戦略」とに分かれます。
「短期戦略」はハイリスク・ハイリターン、「長期戦略」はローリスク・ローリターン。どちらの戦略もそれぞれ一長一短ありです。
学力は勉強時間に比例です。
勉強時間をしっかり確保することが合格のカギ。
早めに勉強を開始すると合格する確率が高くなる傾向があるわけです。
ただし、試験本番に実力のピークを持っていくため勉強開始のタイミングを計ることも大切と言えます。
以上、これまでご紹介してきた不動産鑑定士の資格概要でした。
本記事が不動産鑑定士を目指す皆さまに少しでもお役に立つとうれしく思います。
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